-サイクラーズグループ「enloop」が描く、循環と再生のかたちー
大量生産・大量廃棄の時代が長く続いたことで、まだ使える家具や資源が、日々大量に捨てられています。「壊れているから」「流行遅れだから」「引っ越すから」──そんな理由で見放された家具の“その後”に、私たちはどれだけ目を向けているでしょうか。
サイクラーズグループが展開するリメイク家具ブランド「enloop(エンループ)」は、「捨てる前に、もう一度見つめなおす」という視点から、循環型社会に向けたひとつの答えを提示しています。テーマは“新品より、ずっといい”。廃棄予定だった家具に新たな価値と物語を宿し、次の暮らしへと橋渡しをする。それがenloopの掲げる「Re:MAKE(リメイク)家具」の思想です。
この循環の仕組みを支えているのが、サイクラーズグループであるトライシクル株式会社(以下、トライシクル)です。千葉県富津市のリサイクルセンターでは、企業から回収された家具の中から状態の良いものを選別し、再販(リユース)として流通させる一方、傷や経年劣化によって再販が難しいものは、enloopによるリメイクの素材として供給。enloopではそれぞれの家具のデザイン・製作(解体や研磨、部材の分離などの工程等)を経て、最終的な販売・流通まで一気通貫で手掛けています。
一品ずつ手作業で仕上げるデザイナーの創造力と、それを下支えするトライシクルの集荷力や営業力。異なる機能が互いに補完し合いながら、ひとつのプロダクトに再生のストーリーを吹き込む──その有機的な連携こそが、enloopのものづくりの強さとなっています。
enloopの家具は、単に再利用や再加工を目的としたものではありません。手掛けるのは美術大学出身のデザイナーたち。家具に残された時間や記憶を丁寧にくみ取り、暮らしのなかで再び愛されるための“新しい物語”をまとわせていきます。 時には「傷」はあえて残す。時には「色」は大胆に塗り替える。時には「形」は少しだけ遊ぶ。そうして生まれる家具たちは、一点物としてECやイベントなどで販売されており、全国にファンを広げつつあります。
また、女子美術大学との連携授業では、学生とともに廃棄椅子の脚をリメイクし、マガジンラックやスツールなどへと生まれ変わらせる産学連携プロジェクトも実施。モノと人の新しい関係性をデザインするその活動は、資源の循環を超えて、暮らしの文化に新たな価値観をもたらしています。
また、他企業との共創も広がりを見せています。オーストラリア発の寝具ブランド・コアラスリープジャパン株式会社との協業で生まれた「コアラペットベッド KUDDLE」は、返品マットレスをアップサイクルして開発されたサステナブルプロダクト。
始まりはコアラスリープジャパンから返品マットレスの再利用を相談されたことでした。トライシクルでは検品に合格した物は再販売し、そうでないものはサーマルリサイクル(焼却処理)を行っていました。この再販できないマットレスを、“誰かの暮らしに寄り添う新たな形”として再定義する──そんな想いから開発は始まりました。 デザインチームは、機能性と美しさを両立させ、滑り止め付きの座面や洗えるカバーといった細部にまで配慮した製品を設計。本来捨てられるはずだったマットレスカバー生地の再利用や、サーマルリサイクル(焼却処理)されるはずだったマットレスの活用といった環境配慮の要素も詰め込まれています。不要なはずのものが、誰かの大切なペットの「居場所」になる。これもまた、“モノとの関係性”を見直す取り組みの一環です。
さらに、2025年7月27日に閉館する東映の直営映画館「丸の内TOEI」との取り組みでは、よりエモーショナルな価値の再生にも挑戦しています。
長年、多くの映画ファンに愛された劇場。その設備の多くが、閉館後は“廃棄”される運命にありました。しかしenloop®は、劇場の座席やスクリーン、緞帳といった設備に新たな命を与えるべく、アップサイクル家具・雑貨としての再生プロジェクトに参加。東映はクラウドファンディングというファン参加型の企画で、支援者の手元へ“思い出のかたち”を届けようとしています。
このプロジェクトに込められているのは、「モノには、思い出も宿る」という感覚です。映画館という空間に流れていた時間や感情が、家具というかたちに変わって誰かの暮らしに残っていく。そうした視点は、資源としての循環だけでなく、記憶の継承、場所の物語性までもデザインによって再構築できることを示しています。
enloopの活動は、「ただ廃棄を減らす」「ただ資源を活用する」といった環境配慮の枠を超え、「モノとの付き合い方を再定義する」文化的な挑戦でもあります。
「この家具、もともとは映画館の座席だったんだよ」「これはマットレスから生まれたベッドでね」と語れるモノたちが、私たちの生活を豊かにしてくれる。そんなストーリーを持ったプロダクトが、ひとつ、またひとつと増えていくこと。それこそが、“持続可能な社会”をモノづくりの現場から支える確かな力になるのではないでしょうか。enloopは、そんな価値観を未来へつなぐための、静かだけれど力強い運動を続けています。